キリンビールといえば、かつて、「キリンスタウト」という名前で、本格的なスタウトを作っていましたが、いつの間にかディスコンになっていました。
キリンスタウトには熱心なファンがついており、一定数は出続けていたと思うんですが、大キリン様的には納得できるレベルの売り上げを上げられなかったということでしょうか。
ちなみに小誌『くらびー』のレビュー記事を書いてくれたり、即売会の頒布手伝いをしてくれたりしているビールファン友達、猫背さんもその「熱心なファン」の一人であり、ディスコンになったキリンスタウトを箱買いした挙句、長期熟成(つまりちょっとづつ飲んでいる)という暴挙に出ています。
一方アサヒビールは、「アサヒスタウト」という、これまた本格的なスタウトを出していますが、こちらも大手が造る画一的なビールとはかけ離れたもので、大手メーカーが造ってはいるものの、日本を代表するスタウトの一つとして世界に誇れるものだとは思います。
かの藤原ヒロユキ氏も、日本ビアジャーナリスト協会のウェブページ上で 「アサヒスタウトは日本が世界に誇る『クラフトビール』である」 と認めていらっしゃいます。
さてキリンです。
キリンは、「キリンスタウト」終了後も、「キリン一番搾りスタウト」というのを造っていました。
ただ、これ、2012年冬コミで出した小誌 『くらびー Craftbeer Japan Vol.2』 のレビュー記事の冒頭でも少し触れていますが、「一番搾りスタウト」、日本では堂々と「スタウト」と名乗ってはいたものの、世界で一般的に使われている「スタウト」の定義からは大きく外れるものでした。
BJCPという団体が策定した、ビールのスタイルを定めた世界基準でも、スタウトは「エール(簡単に言うと上面発酵酵母を使ったイギリス式のビール)」から派生したスタイルとされています。
一方、「一番搾りスタウト」は、「ラガー(下面発酵酵母を使ったドイツ式のビール)」スタイルの黒ビールでした。これは、先に挙げたBJCPのガイドラインでは「シュバルツ」というスタイルに分類されます。
ではなぜ世界基準を無視して日本国内では「一番搾りスタウト」が「スタウト」を名乗っていたのかというと、「ビールの表示に関する公正競争規約」という、ビール酒造組合(アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー、オリオンの大手五社による組合)が定めたガイドラインで、「濃色の麦芽を原料の一部に用い、色が濃く、香味の特に強いビール」と定めているからです。
要するに「俺らがスタウトって言って良いって決めたから、これスタウトなの!」っていうことだったわけですね。
なんでシュバルツを「スタウト」と言うようになったのかはわかりません。言って良い根拠は以上の通りですが。
想像ですが、ギネス・スタウトという名前が、黒いビールの代名詞的に広く知られているという状況を踏まえたのかもしれませんが、日本でギネスが大きく知られるようになったのも、そう遠い昔の話ではないので、わかりません。
まぁエールに類するから偉くて、ラガーに類するから偉くないんだ、という訳ではないですし、シュバルツであろうとスタウトであろうと、美味しければ大きな問題ではないのですが、やはりネーミングは気になります。
まぁ胴体に日の丸がついているレシプロの戦闘機を全部「ゼロ戦」と言い包めるようないい加減さを感じると、ビールのマニア的には一言言いたくなるってもんです。
いや、「言いたくなるってもんでした」ですね。
というのは、今年の㋁6日、「一番搾りスタウト」がフルモデルチェンジしたのです。
詳細は以下のリンクからご覧いただくとして。
「一番搾り スタウト」をリニューアル | キリンビール ニュースリリース
一番搾りスタウト | キリンビール 商品情報
エールならではの楽しみ方として、「ホットスタウト」をメーカーとして勧めています。シュバルツをスタウトと言い張って売っていたのに、この転身っぷり。
クラフトビールの普及に伴って、「ビール」への固定観念が崩れてきていることを踏まえての展開なのかもしれませんが、固定観念を作ってきたのはあなたたちでしょ、と突っ込みの一つも入れたくなるのをじっと我慢して、ここはメーカーお勧めのレシピに随って、ホットスタウトを試してみることにしました。
缶の外観。見た目は、旧「一番搾りスタウト」に比べて、黒の比率と金の比率が増えて、ゴージャスというよりも、なかなか「いかつい」感じになっています。これ女子受けしねぇだろうなあとは思います。いやビール女子は関係なく買うでしょうけど。
缶の半分ほどの量をマグカップに注ぎます。泡立てすぎないようにそろっと。あ、ちょっとこぼれた…
そしてスプーンで混ぜます。かなり慎重に混ぜたつもりでも、細かい泡がモリモリでてくるので焦りましたが、しばらくすると消えます。
できました。
かなり泡が盛り上がっています。サイズが小さい容器だと、吹きこぼれるかもしれません。
味は、ホットにすることによって焙煎麦芽の香ばしい焙煎香が強調され、そのアロマに引きずられた結果として苦みも増している、という感じですね。
砂糖を入れることによって、その苦みを中和して、飲みやすくしているのだと思います。
砂糖の量は「小さじ一杯」となっていますが、入れすぎるとえぐくなるのかな、とも思います。まぁメーカー推奨のレシピ通りが適当かなと思います。
焙煎の苦みが強いのが大丈夫な人は、砂糖なしでもいいでしょうね。
今回はホットにして飲みましたが、冷たいままでも飲んでみて感じたのは、日本のクラフトブルワリーが造る世界レベルのスタウトと比べるのはフェアじゃないでしょうけれど、大手が造るスタウトとして、たとえばギネスと比べてどうかというと、ギネスより若干スタウトのキャラは強いけれども、まあ大手らしい、よく言えば癖のない、悪く言えば特徴のないスタウトですね。ドラフトで飲めるところがあれば飲んでみたいですが、缶同士の対決だとギネスよりも好きかもしれません。
まぁ、鮮度とか移動距離の問題かもしれませんが。
アサヒのスタウトと比べては駄目です。あれは大手が造るビールとしては例外的に、ハイアルコールで、それこそクラフトマンシップ満載ですから(売り方も違いますしね)。