C95 新刊は『くらびー Vol.11』になります。
今回インタビューしたのは、島根県の「松江地ビール ビアへるん」。
鳥取県の大山Gビールと並んで、山陰地方のクラフトビールシーンを牽引するメーカーと言えます。

国宝松江城の掘割には、「堀川めぐり」と呼ばれる、観光客向けの遊覧船がありますが、その船着き場に隣接して建つのが、「松江堀川地ビール館」です。
「松江地ビール ビアへるん」の名前で知られる島根ビールの醸造所は、この「松江堀川地ビール館」の中にあります。
今回も直接醸造所にお伺いして、工場長の谷勲さん、社長であり前・工場長の矢野学さんのお二人にお話を聞いてきました。

松江地ビール ビアへるんのイメージといえば、クラフトビール百花繚乱の今の時代において、「ヴァイツェンとスタウトがフラッグシップ」と言い切り、その二つにペールエールとピルスナーを加えた定番4種の品質維持と向上に限りなく注力するメーカーです。

一見すると、大変地味なメーカーというイメージですが、その姿勢こそが、大都会がない島根県という地方にいながらにして、地元消費率5割という驚異的な「地元消費率の高さ」の原動力とも言えます。

重要なのは、彼らは、決して、単に保守的な、面白みのないメーカーではない、ということです。その証拠に、決して過去の型にはまらない、面白いスタイルのビールもまた、高い品質でつくっています。
例えば毎年、同じ島根県内の日本酒の酒蔵とのコラボで醸造される、冬の限定ビールである「おろち」というビール。
日本酒酵母や米麹を使うことで、ビール酵母では分解できないレベルの糖分が分解されますが、これは奇しくもアメリカの先端的とも言えるスタイル「ブリュットIPA」と同じ原理になります。
「流行っているスタイルを全部追いかける気は全くない、そこに割く力があればレギュラービールの品質向上にその力を向ける」と言い切りながらも、こういったビールをきっちりモノにできているあたりは、ビールメーカーとしての地力を感じさせます。
これからの日本のクラフトビールシーンを考えるにあたり、メーカーとしての一つの「あり方」を体現しているともいえる、「松江地ビール ビアへるん」こと島根ビール。
自分なりに、今回も実のある取材ができたのではないかと感じています。